LPガスとは
LPガス(LPG)とは、プロパン(C3H8)とブタン(C4H10)の総称であり、「Liquefied Petroleum Gas(液化石油ガス)」の略称のガス体エネルギーです。特に主成分のプロパンは、全国の約2,400万世帯で使用されており、「プロパンガス」とも呼ばれています。
LPガスの特長
簡単に液化できる
LPガスは通常気体ですが、圧力をかけたり、冷却することにより、比較的容易に液化することができます。プロパンは1MPa程度の圧力をかけ、液化します。LPガスを液化させると、体積が気体時の約250分の1に縮小するので、大量のLPガスを効率よく貯蔵、運搬、供給することができます。
容器・貯槽内のLPガスは圧力をかけて液化されており、通常は自然気化を行い、気体で使用しますが、寒冷地等では強制気化装置(ベーパライザー)で強制的に気体にし、使用する場合もあります。
空気より重い
空気中に放出された場合は、プロパン約1.5、ブタン約2.0とガス比重(空気を1.0とした場合の重量比)が空気より重いため、床などの低いところに滞留します。このため、LPガスのガス漏れ警報器は下部に設置します。また漏洩時は、床などの低いところの換気を行うなどの必要があります。
着臭している
純粋なLPガスは無色無臭ですが、保安上の観点から漏洩時に感知できるように、微量の硫黄系化合物で着臭しています。高圧ガス保安法では、空気中の混入比率が「1/1000」の場合においても感知できるように着臭することが定められています。
なお、ガスに着火する際、消火する際に着臭剤の臭いが強く出ることがあります。これは容器内の残ガス量の減少により、容器下部に溜まった着臭剤の濃度が高くなるために発生するもので、安全上は特に問題ありません。
都市ガスとの違い
LPガスは都市ガスと同じガス体エネルギーですが、その性質にはいくつかの違いがあります。LPガス(家庭用)の主成分はプロパン(C3H8)、都市ガス(13A)の主成分はメタン(CH4)で、プロパンの単位体積当たりの熱量は都市ガスの2倍以上です。LPガスと都市ガスでは熱量が大きく異なるため、コンロや給湯器等のガス機器はそれぞれ専用の機器を使用する必要があります。
またプロパンは前述のように容易に液化させ、容器に充填してどこにでも運ぶことができるため、全国どの地区、どの地域でも使用(分散型供給)することができます。一方、都市ガスは常温状態で液化させることができないため、主として導管によって気体の状態で供給(系統供給)しています。これにより、都市ガスは導管が設置されている都市部等(全国土の約5%)に限定されますが、LPガスは全国どこにでも供給され、使用することができます。
LPガスと都市ガスの違い
|
LPガス |
都市ガス(13A) |
主成分 |
プロパン(C3H8) |
メタン(CH4) |
発熱量 |
102 MJ/m3 |
45 MJ/m3 |
比重 |
1.5 |
0.6 |
沸点 |
-42℃ |
-162℃ |
供給形態 |
分散型供給 |
系統供給 |
LPガスの環境性能
温室効果ガスを削減するには、環境負荷の小さいクリーンなエネルギーを効率的に利用することが重要です。LPガスは石油や天然ガス等の化石エネルギーの中で相対的に二酸化炭素排出量が少なく、燃焼時の排出ガスも極めてクリーンなエネルギーであり、地球温暖化対策の即戦力として期待されています。
LPガスの二酸化炭素排出原単位
LPガスを燃焼させた時の二酸化炭素排出原単位は、原油を1.00とした場合、指数換算で0.86となります。ガソリン、灯油などの石油製品と比べて10%以上少なく、天然ガスを含めた化石燃料の中でもトップクラスの環境性能を持っています。
エネルギー源別総発熱量当たり標準炭素排出係数
|
標準炭素排出係数 gC/MJ(Gross) |
指数 |
石炭(一般炭) |
24.29 |
1.28 |
A重油 |
19.32 |
1.02 |
原油 |
18.98 |
1.00 |
ガソリン |
18.71 |
0.99 |
灯油 |
18.71 |
0.99 |
LPガス |
16.37 |
0.86 |
都市ガス |
13.95 |
0.73 |
LCI分析における二酸化炭素排出原単位
「ライフサイクルインベントリ(=Life Cycle Inventory:LCI)分析」とは、燃焼時の二酸化炭素排出量だけではなく、各エネルギーの生産、輸送段階における排出量まで含めたトータルの二酸化炭素排出量を推定する方法です。これによって各エネルギーの環境性能をより厳密に比較することができます。
「LCI分析」によると、LPガスはLNG、都市ガスに比べ、燃焼時の排出量は大きいものの、合計の排出量はガス体エネルギーとして都市ガスとともにクリーンなエネルギーであることが分かります。
エネルギー源別総発熱量当たり標準炭素排出係数
|
石炭 |
石油 |
LNG |
都市ガス |
LPガス |
生産 |
2.16 |
1.31 |
9.44 |
9.08 |
3.58 |
輸送 |
2.48 |
1.18 |
2.37 |
2.28 |
2.32 |
二次生産 |
- |
2.84 |
0.14 |
0.49 |
0.69 |
設備 (貯蔵タンク等) |
0.11 |
0.08 |
0.12 |
0.50 |
0.09 |
小計 |
4.75 |
5.41 |
12.07 |
12.35 |
6.68 |
燃焼時 |
90.23 |
68.57 |
49.50 |
50.60 |
59.03 |
合計 |
94.98 |
73.98 |
61.57 |
62.95 |
65.71 |
単位:(g-CO2/MJ)
(出所:日本工業大学「LPガスの環境側面の評価―エネルギー製造・利用のLCI(ライフサイクルインベントリ)分析―」2009年を元に作成)
機器別二酸化炭素排出量比較
同じように各機器の二酸化炭素排出量をLCI分析によって比較してみると、ガスコンロはIHヒーターと比べて約半分、燃料電池は商用電力とエコキュートを併用した場合に比べて約40%減、同じくガスエンジンコージェネレーションと比較すると約30%減となり、二酸化炭素排出量という点ではガス機器の方が圧倒的に優れていることが分かります。
機器別二酸化炭素排出原単位
第2の温室効果ガス「ブラックカーボン」
地球温暖化に影響を与えるガスは、二酸化炭素だけではありません。その意味で現在注目を集めているのが、「ブラックカーボン(Black Carbon・黒色炭素)」です。ボイラーなどの燃焼機器に付着している黒い残渣分である煤(すす)は、このブラックカーボンと他物質との混合物です。
ある研究によると、1750年以降に排出された地球温暖化ガスの効果による温度上昇のうち、全体の約40%がこのブラックカーボンの寄与によるものとされており、残りの大部分を占めている二酸化炭素に次いで、2番目に温室効果が高いとされています。
地球の温度上昇に対するブラックカーボンの寄与度
温室効果ガス |
1.6 |
化石燃料および バイオ燃料の煤(すす) |
0.3 |
都市熱 |
0.05 |
冷却分 |
-1.2 |
合計の 温度上昇量 |
0.8 |
単位:℃
(出典:Jacobson, M.Z, 2007, Black carbon and global warming, U.H.o. Representatives, Washington DC.)
ブラックカーボンは、その地球温暖化係数について合意が得られていないため、京都議定書における地球温暖化ガスの定義に含まれていません。しかしこのブラックカーボンの排出量を炭素排出量に含めた場合と、単純に二酸化炭素の排出量だけで比較した場合とでは、全体への寄与度が大きく異なってくる可能性があります。
ブラックカーボンを加味した場合とそうでない場合の相対排出量
(出典:World LP Gas Association, 2010, Clearing The Air: Black Carbon, Climate Policy and LP Gas.)
このグラフで示すように、LPガスの燃焼時のブラックカーボンの排出量は、燃焼機器の性能による違いもありますが、ディーゼルや木質バイオマスに比べて非常に小さくなっています。これは、LPガスが二酸化炭素もブラックカーボンの排出量も少ない、真にクリーンなエネルギーであることを裏付けています。
またブラックカーボンは地球温暖化だけではなく、PM2.5に代表されるように、人間の健康に与える影響も無視できないため、特にバイオマス資源への依存度が高い途上国において、クリーンなLPガスの普及が求められています。
クリーンエネルギー「LPガス」
LPガスは、ブラックカーボンなどの浮遊性粒子状物質(SPM)のほかにも、大気汚染の原因とされている窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)をほとんど排出しないため、特に都市部の自動車交通による大気汚染防止の最も現実的かつ容易な選択肢として、世界各地の都市でLPG車の導入が進められています。また、地球を有害な紫外線から守っているオゾン層を破壊するフロンガスの代替として、それと同等の蒸発性能を持つLPガスは、スプレーなどの噴霧助剤としても広く使われています。